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2007年2月 1日 (木)

小説「独我論島」 第四部 8 行方不明

8 行方不明

 争った形跡もなかったが、車内にスワンプマンがしっかりかかえていたはずの缶詰が転がっている。缶詰の内側から外側に向かって長さ1センチほどの傷をつけたあとがあるが、内側から別の金属で補修されているようにも見える。穴が開いて、二人は中に吸い込まれてしまったのだろうか。缶詰に耳を押し当てても潮騒らしき音がするだけだが、それは貝殻から聞こえる音と違っているようにも思えなかった。
 息子夫婦はアドワイチャ老人の捜索願いを警察に出したが、警察では波にさらわれたのではないか、という見解だった。入水自殺防止のパトロールをしていたわけだから、まさか自分が入水自殺するわけはないし、誘拐されたとしても(お金持ちのお爺さんだからありえるが)一週間以上経っても身代金の要求がないではないか。担当の刑事がそんなことを言っていたが、息子夫婦も事故という線での決着を願っているようだった。できれば人名救助の最中に溺れてしまった、という筋書きならば美談となるのだが。
 前にも述べたが、象亀海岸の沖合には強い潮流が流れていて、入水にしろ、溺死にしろ、水死体を見つけることは非常に困難である。だから海上の捜索も比較的短期間で打ちきられてしまったが、家族から文句も出なかったのである。
 ヒロシも事情聴取を受けたが、缶詰のことやスワンプマンのことは伏せておいた。缶詰の中に吸い込まれたかもしれない、などと言えるわけがないじゃないか。
 それからもヒロシはアドワイチャやスワンプマンのいないマイクロバスに通い続けた。家に戻っても誰にも相手にはされないし、一緒に遊ぶ友人もいない。そうかと言って一人で「入水客」を見張るような使命感もないので、マイクロバスのシートを倒して寝転がって本を読んだり、話し声が聞こえないかと、ダッシュボードに入れた缶詰を取り出して耳を当てたりするばかりだった。
 アドワイチャ老人が行方不明になって三週間目、駐車場から忽然とマイクロバスが消えていた。ヒロシが母親にマイクロバスの行方を聞くと、廃車にしたのだと言う。
「駐車場の場所塞ぎだったからねえ。あんたがあそこに入って何かしていることは知っていたけれど、そういうのは教育上よくないって、お父さんとも話したわけよ。たまり場になるでしょ? 」
 何だい、相談もなしに! ヒロシはキレそうになったが、ぐっとこらえてマイクロバスの行方を聞き出そうとした。
「あの中に忘れ物があるんだよ」
 母親はバスの行き先は直接知らなかったが、解体業者の名前は教えてくれた。追いかけて缶詰を持ち出さないと。プレスされてしまったらアドワイチャはどうなってしまうんだ。世界は存続できるのか?

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